実務翻訳に必要な3要素

*本稿は2008年に別のブログに書いた記事の再掲です。

実務翻訳をするに当たり、必要な能力は大きく三つあると思います。
一つは、ソース言語(原文の言語=英日翻訳における英語)の理解力です。二つめは、ターゲット言語(訳文の言語=英日翻訳における日本語)の表現力。三つ目は、専門知識です。

たとえば、金融関係の英日翻訳をやる私の場合、英語の文章の理解力、日本語の表現力、金融の知識が必要だというわけです。

どれが一番重要かという話になると、人によって意見が異なるようですが、最近は特に、「翻訳者たる者、物書きの端くれなのだから、商品となりうるプロの日本語(ターゲット言語)が書けなければいけない。よって日本語が一番大事だ」といった論調が多く聞かれるように思います。

まさに正論なのですが、では英語の理解力が低くても、あるいは専門知識が少なくても、日本語の能力が高ければ何とかなるかといえば、そのようなことはありません。

十分な語学力と専門知識を持ち、原文を正しく理解しない限り、いくら日本語の表現力が高くても原文の情報を正確に伝えることはできません。私は他の人の訳文も時々チェックするのですが、こなれて読みやすい訳文のようでも、原文と照らし合わせると内容が全然違うということが間々あります。

また、よく誤解されているのですが、語学力だけあっても、専門知識がなければ原文を正確に理解することはできません。たとえば、文法上、何通りかの解釈が可能な文の場合、語学力だけではどの解釈が正しいのかを判断できませんが、専門知識があれば、自ずと正しい解釈が明らかになる場合があります。

専門知識は原文の理解だけではなく、訳文のアウトプットにも欠かせません。その業界の用語を正しく使って書かなければ、理解不能な文になりかねません。一方、いくら専門知識があっても、語学力がなければやはり原文を理解することはできませんし、日本語力がなければ、人に読んでもらえる訳文は作れないでしょう。

つまり、上記3要素のいずれも非常に大事なのです。どれか1つだけでは、もちろん翻訳はできません。また、どれか一つが欠けるだけでも、翻訳と呼べるものにはならないでしょう。

しかし翻訳という作業のプロセスが「原文の理解」→「訳文の作成」という流れになっている以上、まず大前提として、理解のためにソース言語の理解力と専門知識が重要で、次の段階として、表現のためにターゲット言語の表現力と専門知識(繰り返しますが、専門知識は原文理解と訳文作成の両方に必要です)が重要であると私は考えます。

実務翻訳に限っていえば、多くの場合、文芸作品のような芸術的な表現は必要ありません。その訳文が使われるTPOに応じた文体で理路整然とした日本語が書ければ、一応の条件はクリアできると思います。さらに一歩進んで、原文の書き手の意図をしっかりとスムーズに読み手に伝えられる文章が書けると、差別化ができる(優秀な翻訳者と評価してもらえる)のではないでしょうか。

つまり、「翻訳者に一番大事なのは日本語である」という意見は、「原文が理解できるのは当たり前。プロとしての仕事をする上で一番大事なのが日本語(ターゲット言語の表現力)である」という意味だと、私は解釈しています。

どれが一番大事かはともかく、これら3要素の総合力が翻訳者の力量となるわけです。したがって、どれかが多少劣っていても別の要素でカバーできるのは確かです。だからこそ、私のようにどの要素をとってもたいしたことのない者でも、何とか仕事にありつけるのでしょうが、一流の翻訳者を目指すのであれば、すべての要素で一流の域に達するように努力を続けていく必要があると日々感じています。

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